株式会社富士経済は、排出量取引制度「GX-ETS」の本格稼働を受けてカーボンクレジット取引の活性化が期待される中、工業系カーボンクレジットには見られない非炭素プレミアム価値を有する、農林水産業分野における排出削減・吸収・貯留による自然系クレジット(J-クレジット、Jブルークレジット)の市場を調査しました。その結果を「農林水産業由来の自然系カーボンクレジット市場の創出・取引拡大に向けた取り組み実態調査 2026」にまとめました。
この調査では、農林水産業由来のカーボンクレジットを創出する企業・団体および創出支援事業者におけるIT・環境・バイオ技術の活用状況、アライアンス動向、クレジット価値訴求方法などクレジット創出・取引拡大への取り組みや、需要家の特徴、購入目的・理由を捉え整理し、自然系クレジット市場の現状とトレンド、課題を明らかにすることで、将来を展望しました。
なお、本記事以外にも、より詳細な市場構造、市場シェア、参入企業動向などをお知りになりたい方は、「農林水産業由来の自然系カーボンクレジット市場の創出・取引拡大に向けた取り組み実態調査 2026」をご購入の上、ご覧いただければ幸いです。
◆当該資料の全体サマリー
国内の自然系クレジット取引市場

2024年の国内の自然系クレジットは、創出数量が75万t-CO2、取引数量は17万t-CO2、取引市場は13億円となりました。その大半を森林クレジットが占めています。
自然系クレジットは工業系クレジットに比べて単価が高く、需要家は地域貢献やPR効果を目的とした小口取引が中心でした。しかし、2026年度から排出量取引制度「GX-ETS」の第2フェーズが開始され、GHG(Greenhouse Gas:温室効果ガス)多排出企業を中心としたオフセット目的の取引や、将来的な価格上昇を見据えた長期保有・投資目的の大口取引の活発化が期待されます。
短期的には、経済産業省が2025年末に「GX-ETS」の排出権取引上限価格を自然系クレジットの相場に比べて大幅に低い4,300円/t-CO2に設定した影響が懸念されますが、森林分野の大規模創出プロジェクト増加や、中干し延長を中心とした農業分野での創出数量増加により、2030年には創出数量が334万t-CO2、取引数量が284万t-CO2、取引市場は320億円に達すると予測されます。
森林分野は、J-クレジット制度の「FO-001:森林経営活動」「FO-002:植林活動」「FO-003:再造林活動」の方法論に基づくクレジットを対象とします。
森林分野での取り組みは、自治体や森林公社、森林組合など、民間企業に比べて創出したクレジットの販売力が弱い事業者によるものが多く、取引価格は概ね10,000円/t-CO2であり、取引は活発とは言えませんでした。しかし近年は、商社や創出支援・仲介事業者等との共同事業による年間創出量が数千から数万t規模に達する大規模プロジェクトが増加しています。これにより創出数量が増加し、取引価格も5,000円から10,000円/t-CO2程度へ下落したため、取引は活発化しています。今後も新たな大規模プロジェクトの登録が期待されるほか、吸収・除去系のクレジットに対する需要者側のニーズ増加も期待されるため、創出・取引市場の拡大は続くと予想されます。
農業分野は、J-クレジット制度の「AG-003:茶園土壌への硝化抑制剤入り化学肥料又は石灰窒素を含む複合肥料の施肥」「AG-004:バイオ炭の農地施用」「AG-005:水稲栽培における中干し期間の延長」の方法論に基づくクレジットを対象とします。
AG-004は、2022年に市場が立ち上がりましたが、施用するバイオ炭のコスト等を踏まえるとクレジット価格は数万円/t-CO2と高額で、現状の創出・取引量は限定的です。それでもJ-クレジットの中では希少な吸収・除去系クレジットであり、土壌改良資材としての効果も注目されているため、市場拡大が期待されます。
AG-005は、2024年に市場が立ち上がり、ベンチャーや大手企業による多様なプロジェクトが進行しています。生産者にとって比較的取り組みやすく、クレジット価格も概ね5,000円から10,000円/t-CO2で、取引は好調です。認証対象期間が8年間と限定されていることや、優良農地や優良地域を巡る競争が激化していますが、2030年には市場は森林分野に匹敵する規模まで拡大すると期待されます。 なお、AG-003については、現時点でプロジェクトとして承認された取り組みは確認されていません。
水産業分野は、Jブルークレジットで認証されたクレジットを対象とします。
Jブルークレジットは、2021年よりクレジットの認証・発行が開始されており、クレジット量の調査・算出に用いる手法や方法論など、制度の改善・向上に関する研究開発が進んでいます。クレジットの認証件数は、2024年が20件であったのに対し、2025年には61件まで増加しています。また、取引数量と取引市場も年々拡大しています。注目度が高い一方、現時点での創出数量はごく僅かで、取引価格は50,000円から100,000円/t-CO2と非常に高額です。今後は創出数量の増加とコストダウンが進むことで、市場のさらなる活性化が期待されます。
畜産業分野は、Jークレジット制度の「AGー001:牛・豚・ブロイラーへのアミノ酸バランス改善飼料の給餌」「AG-002:家畜排せつ物管理方法の変更」「AG-006:肉用牛へのバイパスアミノ酸の給餌」の方法論に基づくクレジットを対象とします。
2025年時点で、AGー001、AG-002、AG-006にはいずれもプロジェクト登録がありますが、クレジット創出に至ったのは2024年のAG-002(通常型)と2025年のAGー001の2プロジェクトにとどまり、いずれも小規模で、自然系クレジットの中で最も取り組みが遅れています。現状は、創出したクレジットの販売先が決まっているプロジェクトが中心で、創出数量は取引数量と一致しています。2026年以降は、AG-002(プログラム型)において数千t-CO2以上のプロジェクトやAG-006のクレジット創出が予想されています。また、新規方法論である「AG-007:牛への飼料添加物(曖気(牛のげっぷ)中の温室効果ガス削減に資するもの)を使用した飼料の給餌」も、2026年よりプロジェクト登録される見通しであることから、さらなる市場拡大が期待されます。
【参考】本記事で使用した「農林水産業由来の自然系カーボンクレジット市場の創出・取引拡大に向けた取り組み実態調査 2026」に掲載している調査対象市場
自然系クレジット市場
- 農業分野
- 水産業分野
- 畜産業分野
- 森林分野
ケーススタディ
- 注目創出/創出支援事業者11事例、主要自然系クレジット需要家21事例
◆本記事は「農林水産業由来の自然系カーボンクレジット市場の創出・取引拡大に向けた取り組み実態調査 2026」より一部取り上げ、概要をご紹介しました。当該資料の目次や内容の詳細はこちらでご紹介しています。